Editor’s Discovery~ファッション業界のIT化をもたらした「寄り添い」の思想。誰でもイマジネーションを実現できる世界へ。~

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2019.05.24
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全国には、より良い未来の実現のため、強い想いを持って新たな取り組みに挑む中小・ベンチャー企業が存在します。「Editor's Discovery」のコーナーでは、SOUL of Soldout編集部が実際に企業を訪れ、挑戦のストーリーをお伝えします。今回は、熊本発の衣服生産のプラットフォーマー、シタテル株式会社さんに伺いました。

東京・渋谷の宮益坂から通りを少し入ったところに、シタテル株式会社の東京支社があります。本社は熊本にありますが、東京にも拠点を置いています。白を基調に整えられた温かみのあるオフィスには、ところどころにミシンなど縫製に使われる道具や素材などが飾られ、ものづくりへのリスペクトが感じられます。今回は、シタテル株式会社の代表取締役社長である、河野秀和さんにお話を伺いました。

 

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河野 秀和(かわの ひでかず)
シタテル株式会社代表取締役社長
プロフィールをみる
河野 秀和(かわの ひでかず)
メーカー・外資系金融機関を経て、総合リスクマネジメント事業やシタテルの前身となる会社を設立後2013年に米サンフランシスコ・シリコンバレーにて世界の最前線のITを導入した流通システム・シェアリング事業開発等を学びM&AやSO/ベンチャー企業を取り巻く法律など見識を高める。帰国後2014年sitateru Inc.を設立。現在、熊本と東京を拠点に活動。
経済産業省「ファッション分野におけるデザイナーと繊維産地のコラボ促進のための研究会」有識者内閣府「地域しごと創生会議」IoTを活用した新たな企業間連携の促進代表企業。Google「デジタル革命とそれを取り巻く規制」 外部メンバー。熊本大学非常勤講師。

ファッション業界の構造改革を

シタテル

畠中:まずは、シタテルさんで取り組まれている事業についてお聞かせください。

河野:我々は、衣服を作りたい人と生産工場とを繋ぎ、衣服生産の全行程をサポートする衣服生産のプラットフォームを提供しています。「服を作りたい」というニーズを持った幅広いお客様と、工場などの生産サイドのネットワークとを繋げることで、場所を選ばず誰でも衣服生産できる世の中の実現を目指しています。

お客様は個人から法人までさまざまで、法人では現在約1万以上のユーザーが当社のサイトに登録していただいています。アパレルブランドはもちろん、社員のユニフォームを作りたい、物販したいなどのニーズを持った企業さんも多いです。個人では、ファッション業界で活躍されている方や、インフルエンサーの方による50〜100枚程度の依頼も増えてきています。

我々は、ユーザーの方々に対し、オンライン上で作りたい服のイメージをご相談いただくところから、パターン作成、生地・資材のご提案、縫製工場の選定、二次加工から検品、納品まで一貫して支援します。お客様一人ひとりの要望に沿ってワンストップでお応えする、コンシェルジュの役割を果たしています。

シタテル

畠中:衣服生産の全工程をサポートされているというお話ですが、どのようにしてサービスを実現しているのですか。

河野:まず、全国の衣服生産ができる工場のデータベースを作りネットワーク化し、注文にスムーズに対応できるオペレーション体制を作っています。

そもそも前提として、衣服産業は多重構造であるため、服を作りたいと思っても簡単に工場やサプライヤーにアクセスできない状況が続いていました。服を作るには、デザイナー、パタンナー、CADオペレーター、生地メーカーといったプレイヤーそれぞれと実際に会ってやり取りし、調整する必要があったんです。そのため、必要以上にコストがかかるといった問題や、プレイヤー間の情報伝達がスムーズにいかず、納品された商品が要望とずれるなどの問題が発生していました。

これに対し我々は、コミュニケーションの内容や各工場の稼働状況や得意な技術を把握しデータベース化することで、ユーザーが作りたいものを作ることができる工場とのマッチングを可能にしました。また、生産に関わる各プレイヤーとの打ち合わせをオンライン上で行えるようにサービスを構築したことで、スムーズにやりとりできるようになりました。

シタテル

シンプルな思考がもたらしたイノベーション

畠中:河野社長はもともと熊本で経営支援の仕事をされていたということですが、どういったきっかけでシタテルを創業されたんですか。

河野:熊本はファッション感度が高い地域で、経営支援の仕事をする中でセレクトショップや小売店と関わることがよくありました。店主の方々にお話を伺う中で、「自分の店で服を作りたいけれど、少量だと採算が合わず生産できない」という課題があることを知ったんです。それに対して、衣服の生産工程の多層構造を変えれば問題を解消できるのではと思ったのがスタートでしたね。

一方、こちらも仕事で関わっていた工場の実態を調べてみると、繫忙期と閑散期があり、閑散期であればイレギュラーな生産にも対応可能というところが多くありました。さらに、ユーザーのニーズを実現する生産インフラとなれる工場が当時県内に80ヶ所くらいあることがわかったんです。そこを有効に使っていくことで、工場の稼働率も上がるし、多品種小ロットな生産を実現できるというシンプルな思考でビジネスモデルの仮組をしました。

この時点で、ITを導入してオンライン上でやりとりしたり、データを管理するモデルを導入していました。もともとITは個人的に勉強して好きな分野だったんです。本格的にサービス化し、服を作りたいという注文と、受け入れる側の工場のキャパシティとのバランスを取りながら、事業を拡大していきました。

シタテル

幅広い支持を集めた「寄り添い」の思想

畠中:小売店や工場の現場の課題感からサービスを作っていかれたんですね。そこから拡大していく過程では、どんなところが大変でしたか。

河野:サービスを使っていただくためのシステム設計ですね。工場で働く方、特に高齢の方はパソコンやデジタルデバイスを日常的に使うことが多くはないですし、ブランドなどのお客様は感覚的な方が多いので、システムの内容ばかりをお話してもピンと来ません。関係する皆さんにきちんと納得してもらいながらマーケットを拡大していくのは、社員が十分に揃っていない拡張フェーズにおいては一番大変でした。

使っていただけるサービスにするために重視していたのは、システムのUI/UXです。僕たちは社内で「つくる、広げる、寄り添う」をベースバリューにしており、その中の「寄り添い」の思想を大事にして、システムにもフィードバックしていきました。ちゃんと人が使うものになっているかというデザインシンキングと、それをシステムとして実行して回せるかを大事に設計していきました。

シタテル

工場の方にしろブランドの方にしろ、潜在的にITの時代が来てることは感じていたので、きちんと社の思想をお話することで、最終的には納得して賛同いただくことができました。

また、実績ができるまでは、工場の方々に信頼いただくのも難しいと感じていました。工場の方々の中には、私たちのビジネスモデルに対してあまり良いイメージを持っていない方もいらっしゃいます。これまで、導入すると効果が出るからとシステムに大きく投資して失敗したり、メイドインジャパンのブランドを作ろうとマーケティングに投資して潰れてしまったりと、施策を打ってうまくいかなかった事例もあったと聞いています。

ただ、私はプラットフォーマーが提供できるメリットもあると考えていました。どの工場の方も何かやらなければと思っているのですが、さまざまな施策がありすぎて何から始めればいいか考えるのが難しい状況にあります。プラットフォームにはさまざまな知見が集積しているので、一緒にやることで何からすべきかの判断を支援できると思ったのです。

工場の方々から、一緒に新しい仕組みを創り出していく仲間として、選んでもらえるよう心がけていきました。

シタテル

畠中:そうした気持ちが届いて、多くの人に受け入れられるサービスになったんですね。実際に手がけられた案件で、特に印象的だったものはありますか。

河野:たくさんありますが、特に思い出深いのは熊本地震のとき、大量に使用されたブルーシートでバッグの依頼をお受けしたことです。熊本を拠点とするクリエイティブ集団が、被災した家の屋根に使われていたブルーシートを再利用することを思いついたんです。はじめは売るのは難しいだろうと思いましたが、実際に作ってみるとめちゃくちゃかっこいいのができた上、様々な個人、企業の支援があり、あっという間に売り切れたみたいです。今でも生産を続けていて、作っても作っても売り切れるという状態です。

この事例は、アイディアや見せ方、ブランディングの仕方によって、一見ネガティブな印象のものを違う角度で切り取ることで印象を変えたり、売れるようにするといった、イマジネーションの重要性を教えてくれました。

シタテル

クリエイティブを形にするプラットフォーマーとして

シタテル

畠中:衣服をつくることを通して、物事の印象を変え、ものを売ることもできるんですね。最後に、今後の展望について聞かせてください。

河野シタテルのサービスによって、誰でも、どこにいても自分の思い描く衣服を作れる世界を作っていきたいと思っています。シタテルは衣服生産に特化したサービスですが、根本には「イマジネーション」を実現できる世の中にしたいというビジョンがあります。社会や自分自身を豊かにする源泉が、イマジネーションにあると考えているからです。

一方で、そのイマジネーションを実現するインフラが日本においては圧倒的に足りていないと感じています。個人の趣味嗜好が細分化されている時代なのに、ものづくりのサプライチェーンがそれに追いついていないんです。その部分を変えるためにシタテルを始めたという側面もあります。今後もイマジネーションを生み出せる環境づくりに注力し、最終的には思い描いたものを実現できるようにものづくりのサプライチェーンを変えていきたいですね。

編集後記

シタテル

流行や最先端で華やかなファッション業界の裏に、多くの業者が介在する構造や、古くからの慣習が残っていることを知りました。そんな業界の常識を打ち破り、インターネットを活用して、新しい価値を創造しているシタテル社に対して個人的に興味があり、今回のインタビューに至りました。
シタテル社の面白いところは、工場とのマッチングには独自のアルゴリズムを使い、データベース上には縫製レベル、対応可能アイテム、料金、リードタイム(発注から納品までの期間)、稼働状況といった情報があり、アパレル事業者や個人の要望に応じて最適な工場をマッチングできるところです。まさにITによる“服作り革命”です。小さく生産したい人には小さく生産できる環境、数千枚のオーダーには規模の大きい工場や複数工場の斡旋により中・大ロットの生産環境をつくる。誰もが「自由に服を作れる」未来は、そんな遠くない気がしました。

 

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今代司酒造今代司酒造株式会社様
「Editor’s Discovery~目指すのは、人に喜んでもらえる酒造り。新市場創出に挑み、日本酒業界の光になる。~

 

 

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