知財戦略の起点はマーケティングにあり。『下町ロケット』、リアル神谷弁護士が説く「知財」の重要性とは。

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2019.05.28
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TVドラマ化(※)された小説、池井戸潤著『下町ロケット』(小学館文庫)に登場する知財弁護士「神谷弁護士」のモデルとなった、弁護士法人内田・鮫島法律事務所の鮫島正洋弁護士。
小説では、優れた技術を持つ中小企業が、社員一丸となってライバルの大企業に立ち向かう、その奮闘する姿が話題を呼びました。題材となった「知財(知的財産権)」とは中小・ベンチャー企業にとってどういった意味を持つのか、鮫島弁護士に代表取締役会長CGOの荻原猛が伺います。
※2011年WOWOW、2015年と2018年にTBSテレビで放映

 

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鮫島 正洋(さめじま まさひろ)
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
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鮫島 正洋(さめじま まさひろ)
東京工業大学金属工学科卒業。藤倉電線㈱(現 ㈱フジクラ)にてエンジニア、1992年弁理士登録後、日本アイ・ビー・エム㈱を経て1999年弁護士登録。2004年内田・鮫島法律事務所を設立、現在に至る。主な著書として『知財戦略のススメ』(日経BP2016)〔共著〕など。

・業務分野
特許、意匠、商標、不競法、IT、ファッション、物づくり企業及びIT企業向けの知的財産権法を中心とした技術法務およびコンサルティング
荻原 猛(おぎわら たけし)
代表取締役会長CGO
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荻原 猛(おぎわら たけし)
1973年生まれ。中央大学大学院戦略経営研究科修了。経営修士(マーケティング専攻)大学卒業後、起業。2000年6月に株式会社オプトに入社。2006年4月に広告部門の執行役員に就任。2009年に当社を設立し、代表取締役社長に就任。著書に『ネットビジネス・ケースブック』(2017年 同文舘出版 田中洋共著)がある。2019年3月より現職。

『下町ロケット』の誕生と、その後の世の中の変化

荻原鮫島先生は、『下町ロケット』に登場する知財弁護士「神谷弁護士」のモデルになったとお伺いしました。著者の池井戸潤さんとはどのようなきっかけで出会い、大人気小説が生まれたのでしょうか。実は私自身『下町ロケット』の大ファンで、ドラマは毎回欠かさず拝見していました。

鮫島:ありがとうございます。実は、お恥ずかしい話ですが小説はあまり読まないので池井戸潤さんのことは存じ上げなかったんです。『下町ロケット』をお書きになる2年ほど前の異業種交流会で、偶然隣の席になったのがご縁です。その後、何度かご飯に行き、特許訴訟を題材にした小説を考えているとお聞きしたので30分ほどのレクチャリングを差し上げました。正直私の経験したことが小説になるとも、神谷弁護士にモデルにしていただいたことで有名になるとも考えてもみなかったことだったので驚きました(笑)。

荻原:中小企業のものづくりにフォーカスされた小説は、私の心にかなり刺さりました。世の中で中小企業を題材にした小説は他にあまり見かけない気がします。あの世界観はロマンがあってとても好きです。

鮫島今までは中小企業が注目されることなんてなかったんですよ。例えば大企業のように、世の中の主流と考えられている道とは別のところにいる人たちの物語ですから。『下町ロケット』のヒットには震災があったことも影響しているかもしれません。日本人に勇気や元気を与えてくれるストーリーだったので。2011年の夏に直木賞を受賞してから一気にブームになりました。改めて感じたのは、日本人はものづくりとか、匠の技とか、そのような世界が好きだということですね。

2004年からずっと中小企業の知財戦略についての啓蒙活動に取り組んできたのですが、TV放映によって知財の認知が一気に広まったことや、講演などの問い合わせが急増したことについては、TVの巨大な力を感じました。

荻原:『下町ロケット』のおかげで「中小企業のものづくり」「知財」などに対する関心が世の中にかなり広まった気がします。私も中小・ベンチャー企業の成長支援をしているので、この意識が日本全国に広まったことはとても追い風になると思っています。

 

企業の成長に欠かせない「知財」の存在

荻原:中小・ベンチャー企業にとっていかに知財戦略が必要かを理解できる小説でした。企業同士の争いで度々問題になるのが「知財」ですよね。

鮫島:小説の中の争いごとは、現実に起こっている問題でもあります。頭を悩ませている中小企業さんもいるのではないでしょうか。

もともと日本のものづくり企業さんは、下請けが主だったんですよね。しかし円高になった時代に、大企業は日本の下請け企業に発注して生産を続けても採算が合わなくなってしまったので皆、労働賃金の安価な東南アジアに進出してしまったんです。日本の中小企業は取り残される形になりこのままでは廃業に追い込まれかねない。そこで、新商品開発により下請脱却をしようとするのですが、素晴らしい技術があっても、マーケティングや自社商品の開発などをやっていなかった中小企業が新商品開発をしようとすると他の企業に真似されてしまう。こういう構図で、中小企業は、下請けをやっていた時代には考える必要のなかった「知財」に対して真剣に取組まなければならない状況になったんです。

このような環境的な背景は『下町ロケット』のヒットに少なからず関係していると思います。

荻原:優れた技術を持っているだけでは意味がなく、その技術を知財でしっかり守り固めなければならない。小説の中で「佃製作所」も高い技術力を持ちながら、特許権という知財で技術を守っていたからこそ大企業と対等にわたり合うことができていました。すべての資金を開発に投下するのではなく、まさに、市場のことや商品の売り方などマーケティングの視点を持って適切な配分を行わなければならなくなったということでしょうか。

鮫島:そうだと思います。単にものを作るだけではなく、マーケティングありきでの研究開発をする必要が出てきました。事業を「マーケットイン」で始めるか、「プロダクトアウト」で始めるかで、成功確率の比は10:1くらい違ってくると思っています。

 

「知財」はマーケティングの一手段である

荻原:では実際に中小・ベンチャー企業の皆さんが、開発費用のうちどのくらいを知財戦略に充てるべきだという目安があれば教えてください。

鮫島:業種・業態によっても異なってくるし、戦略によっても違ってくるので、明言するのは結構難しいんですよね。例えば「私たちは日本市場だけで戦っていく」という企業は、日本の知財だけを取得すればいいから知財の費用は高くならない。しかし、創薬ベンチャーなど日本だけではなく世界市場にも進出したいと思っている企業であれば、日本の知財だけではビジネスを広げていくことはできません。世界的に知財戦略を展開しようとすると、開発費の50%くらいかかってしまう場合もあります。

荻原:なるほど。企業の取る戦略によって全然違ってきますね。最近だと、ITビジネスの業態を取っている企業が増えてきました。そういった場合にも知財は重要なのでしょうか。

鮫島:そうですね、「ビジネスモデル特許」というビジネスの仕組みそのものを権利内容とする知財もあります。例えば、Amazonの「ワンクリック特許」なんかが有名だと思います。「1-Click注文」はあらかじめ支払い情報と住所を登録することで、ボタンを押すだけでショッピングカートの画面を経由せずに注文できる機能。私もよく利用しています。楽天など他のネット通販の運営会社が実装してもおかしくないと一見思うんですが、Amazonが「ビジネスモデル特許」を取得しているので真似できないんです。私のような”せっかちユーザー”の心を鷲掴みにして他の企業には渡さないため、「1-Click注文」の機能を特許権で守ることによって、競合他社に使えないようにして、利便性の観点から競合優位性を確保していると言えます。

ただ、2017年にAmazonの「ワンクリック特許」は出願から20年の経過により特許が切れてしまったので、今は楽天も同様の機能を入れ始めているんですよ。しかし、言い換えると、楽天は2017年までそのような機能実装を待たざるを得なかったということになるのです。

荻原サービス業の方には縁遠い話かと思っていましたが、知財が競争優位の一つの武器になるかもしれないというのは面白いですね。いろいろなことにチャレンジできそうです。

鮫島知財は単にその技術やビジネスモデルを守る役割だけではなく、会社の営業ツールになったり、信用担保や資金調達に役立ったりと色々な機能があるんです。ビジネスで重要になってくるのは、自分の優位性をどうやって確保していくかだと思っています。マーケティングと同様、会社を差別化するためのツールの一つが知財なんですよね。なので、マーケティングのような要素と相乗効果を生むようにバランスよく組み込むことが重要だと思います。

 

イノベーションを起こせるのは、中小・ベンチャー企業

荻原:なるほど、知財とマーケティングは切り離して考えるものではないんですね。それでは、中小・ベンチャー企業が知財をうまく活用していくためにさらに何が必要なのでしょうか。

鮫島:どんどん取り組むことだと思います。例えば先ほどの「ビジネスモデル特許」の話でいくと、実装しなくても特許は出してもいいんです。5年後に「あの特許そろそろ使えるのでは?」で大丈夫。Amazonは1997年に出願しているんですけど、その頃はまだインターネットが走り出した頃。インターネットで物を売買する時代が来るなんて誰も想像していなかった世の中で、彼らは未来を予想していました。エレクトロコマースのビジネスが始まったとき、エレクトロコマースというビジネスのどういう付加的な機能について特許を取得すれば優位に立てるか考えていたんです。
今の時代、10年後までを見越すことは難しいと思います。しかし、5年後、インフラってどうなっているんだろう、どんな機能があったら皆が喜ぶだろうと考えてみてもいいかもしれません。

荻原:これからの時代は、常に戦略的に思考することが大事かもしれませんね。

鮫島:仕事の7割がAIに置き換わるかもしれないと言われている変化の激しい時代。2019年は元号が変わる年であり、日本の価値観も変わる気がしています。これまでの日本は、大企業文化が中心にあって「大企業で勤めることが偉い」「起業なんかするやつは落ちこぼれだ」という風潮がありました。けれどそれが変わり始めていて、中小・ベンチャー企業を中心に自己改革ができる企業、イノベーションを起こすことができる企業だけが生き残っていくとも言われています。明治維新、敗戦、バブル崩壊に続いて、これから4つめの価値観の転換期がやってくる気がしています。

荻原:私たちは「先駆者魂」を忘れず、これからも挑戦する企業の成長支援をしていきます!

 

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