上場企業CFOから“お一人様メーカー”を起業 折りたたみ自転車で「個人発世界」へ

その他
2019.11.27
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全国には、より良い未来の実現のため、強い想いを持って新たな取り組みに挑む中小・ベンチャー企業が存在します。今回は、ソウルドアウト株式会社代表取締役会長CGOの荻原が、同社の監査役であるとともに、用途に合わせて折りたたみ、持ち歩けるモバイル変身自転車「iruka」をお一人様メーカーとして開発した株式会社イルカ代表取締役 小林正樹さんに、その挑戦のストーリーを伺いました。

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小林正樹(こばやし まさき)
株式会社イルカ 代表取締役
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小林正樹(こばやし まさき)
慶応大学を卒業後、森ビル勤務を経て創業メンバーとして株式会社オプトに参画。取締役CFOとして、財務を中心とした管理部門全般、上場準備責任者(2004年ジャスダック上場)などを担当。2008年に同社を退社、株式会社イルカを創業。静岡生まれ。

国内だけではなく、世界を意識した仕事をしてみたい。そう考える中でふと思い浮かんだ、折りたたみ自転車。

 上場企業CFOからお一人様メーカーへその転身の理由とは
 

荻原:はじめに、事業内容についてお聞かせください。

小林:折りたたみ自転車「iruka」の製造販売を行っています。シーンに合わせて姿を変える「モバイル変身自転車」を標榜していて、スポーツ自転車と同等の優れた走行性能を備えながら、一般的な折りたたみ自転車より30%小さく折りたためて車のトランクや電車の座席、会社のデスク下などあらゆるスペースに収まります。さらに、折りたたんだ状態で楽に移動できるよう、キャリーケースのように転がして運べるようになっています。

今は製品を発売して3か月ほどですが、日本国内16店舗で販売しており、インドネシア、シンガポール、香港でも販売されることが決定しています。

荻原:小林さんは、僕の前職であるオプトで取締役CFOを務め上場まで導いた、非常にロジカルな印象の方でした。一人で自転車メーカーをやると聞いた時はさすがに驚きましたよ(笑)。事業として立ち上げようと思ったきっかけは何だったんですか?

小林:最初は既存メーカー製の折りたたみ自転車を買って自転車通勤を始めたことなんですよね。電車で通うよりも時間がかからないし、何より乗っていて楽しい。自転車によって新しいライフスタイルを手に入れた感覚がありました。

一方で、使い込むうちに不満も出てきました。例えば、折りたたみのヒンジがフレーム強度のネックになって力が逃げやすい点。都内は交差点が多く、停止と発進が頻繁なので、より軽やかに加速・減速ができる自転車が欲しくなりました。また、いろいろな所に持って行きたかったので、会社のデスクの下や、新幹線の座席など常に自分のそばに置いておけるように、よりコンパクトで収まりのよい形状にできないかと考えました。あとは、当時のオフィスは廊下が200メートルくらいあって持ち運ぶのが大変だった経験から、転がして運べるようにもしたかった。結局のところ、自分のライフスタイルに必要な、自分が欲しい自転車を作ったということです。

荻原:ご自身が「欲しい」と思ったことが立ち上げのきっかけだったんですね。でも、「こんな製品が欲しい」から「自分で作ろう」まではかなり飛躍するじゃないですか。小林さんの中でどんな風に気持ちが動いたんですか。

小林:ちょうど前職の役員ミーティングで、お互いの理解を深めるために個人的な夢を伝え合う取り組みがあったんですよ。発表に向けて机に向かい、自分の夢を書き出しました。ものづくりに興味があったので、代理業じゃなくて作り手をやってみたい。国内だけではなく、世界を意識した仕事をしてみたい。そんなことを考える中で、ふと折りたたみ自転車のことが頭に浮かびました。

自分が最高だと思えるような折りたたみ自転車を作り、グローバルプロダクトとして世界中に売り出す。これなら自分の夢が全部叶うと思いました。やってみたい気持ちが膨らみ、すぐに退職と起業を決意しました。

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周囲がギブアップしても、自分の考えは曲げない 「絶対に自分の理想とする製品を世に出す」という強い想い

最高の折りたたみ自転車を!8年かけて製造工場と出会う
 

荻原:実際、一人でメーカーを立ち上げるとなるとハードルがたくさんありますよね。ここがすごいと思うのですが、どういう手順で進めようとかイメージはあったんですか?

小林:さっきロジカルって言ってくれたけど、自分でもその自覚はあって(笑)。ロジカルに考え行動していけば絶対に実現できると思っていたんですよ。自転車業界は全くの未経験だったので、まず自転車ショップに勤める知り合いに連絡をとって、業界の構造を教えてもらうところから始めました。

さらに作り方を知るために、日本の先行メーカー2社の社長に電話して、話を聞きに押しかけました。どちらの方からも日本では量産は難しいと聞き、海外の工場に製造を委託しようと決めました。90年代までは日本は自転車の一大生産国でしたが、その後台湾や中国との価格競争に敗れ、今や日本に自転車工場はほとんどないんですね。また、金型を作るにも、日本では台湾の5倍近い価格になってしまうのです。

日本で探したデザイナーと一緒に基本的なデザインを固め、図面を持って台湾と中国の工場を訪ね歩きました。しかし、なかなか引き受けてくれる工場が見つからない。どの工場も話を聞いた段階では「面白いね」と前向きな反応を返してくれましたが、製造までは進みませんでした。ほぼ全ての部品が新開発なので、工場としては難易度が高い上に時間がかかる、要は面倒で割に合わないプロジェクトだったわけです。

周囲から「考え方を変えて、最初から完璧なものを作るのではなく、まず機能を絞った製品を作って徐々に改善していく方針でいったらどうか」と言われることもありましたが、自分の考えは曲げませんでした。むしろ逆に、どんなに時間をかけても納得のいく製品を出そうという思いは強くなりました。

荻原:第1作目ですから、こだわりは持ちたいですよね。工場探しはどれくらいかかったんですか。

小林:結局は8年かかりました。

荻原:8年!

小林:途中で、図面だけではなかなか議論は進まないと気づき、鉄製の簡易的なスケルトンモデルを作って持って行くようにしたんです。実物があることで実際に触りながら話ができるので、どんな工法でどんな部品が必要か、圧倒的にイメージしやすくなります。そのうちに引き受けてくれる工場が出てきましたが、「要求レベルについていけない」と途中でギブアップされることが続いて、そのたびにまた新しい工場を探さねばなりませんでした。8年間で10社近く試作を繰り返しながら工場を転々とし、最後にようやく今の台湾の工場と出会いました。

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変身。走る、待つ、歩く、眠る。

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組み立てた状態

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スタンドがなくても自立して駐輪可能

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サドルが取っ手となり、キャリーカートのように楽に移動可能

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コンパクトにたためて、電車の座席、デスクの下など収納可能
 

乗り越えてきた壁を、製品のストーリーに

「きれいごとを言い続ける」ことの大切さ

荻原:そこまで諦めず頑張り続けられた熱意の源は何だったんですか?

小林:単純に、自分が本当に使いたいと思える理想の商品を作りたかったというのは大きいです。元々ものづくりには興味がありましたし、試作を繰り返す過程で、設計や部品を変えてより良いものを作るにはどうすればいいか詰めていく作業も楽しかったです。それに、ブログやSNSで言い続けていたからやめられなかったということも大きいですね。特に、「きれいごとを言い続ける」ことは意識して大事にしていました。株式会社イルカのビジョンとして掲げている「ベンツに乗るより自転車に乗る方がイケてるといわれる社会は、今とはきっと少し違う」ということを私は本気で信じているので、ことあるごとに発信するようにしていました。大っぴらに人に夢を語るのって、気恥ずかしさがあったりして尻込みしてしまう人も多いと思うんですが、人に言うことで後に引けなくなるし、何より本気で言っている人の周りには、自然と応援してくれる人が集まるんですよね。逆に、人は損得だけでは動いてくれません。

荻原:恥ずかしげもなく言うって大事ですよね。恥ずかしくないですからね。本気で思っちゃってるから。

世界でのシェア獲得へ

荻原:最後に、今後の展望について教えてください。

小林:irukaを世界展開していきます。今はインドネシア、シンガポール、香港の3ヶ国で販売が決定していますが、今後はヨーロッパも含めて10か国以上に広げていきたい。ひとつの目安として海外売上比率を最低でも50%には増やしたいと考えていますが、東南アジアのオーダーが順調なので販売初年度から達成できそうです。ヨーロッパは良くも悪くもマーケットが成熟しているので、アジアとは違う攻め方を模索中です。

自転車は世界中どこでも使われているグローバルプロダクトですが、irukaのような高価格帯の折りたたみ自転車の市場は、ニッチな存在なんですよね。世界一の販売台数を誇るブランドでも、日本では10%前後しか認知されていない。

折りたたみ自転車が好きな人に買ってほしいのはもちろんですが、そうでない人にも興味を持ってもらい、マーケット全体を大きくしたいですね。その中で、irukaは「人と違う、こだわりが強い人が乗る自転車」という位置付けにしたいと考えています。
ニーズが顕在化している既存市場を狙っていけば大きな失敗はしないかもしれませんが、リターンも少ない。成功した事例をただ踏襲するのではなく、自分で市場を作りたいという思いが強いですね。

そのためにも、自分の熱意や思いをどんどん発信していくのは引き続き大事だと思います。その点では開発に10年かかったことも、今思えばむしろよかったのかもしれないと感じています。順風満帆ではなかった分思い入れもひとしおですし、製品にストーリーが生まれました。irukaのウェブサイトには開発の経緯を掲載していますが、商品が生み出された過程を知ってもらうことで「熱意を持って作られた商品なんだな」とユーザーに伝わりやすくなったと思います。

荻原:ブランドにはストーリーが大事ですよね。ストーリーに共感するからそのブランドを買う。ものを買うことは自己表現の一つになっていると思います。

小林:そのとおりだと思います。これからはさらに、世界展開のストーリーを作っていきたいですね。画像

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