成長の踊り場を越えるためのブランディング手法とは

その他
2019.12.26
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デジタル広告を展開して一定の成長を遂げたのちに直面する、成長の鈍化。それは多くの企業が直面している課題です。いわゆる、顕在層を取り込んだ後に必ずやってくる、売上の頭打ち、成長の踊り場。その時、企業はどんな施策を打つべきなのでしょうか。

ソウルドアウト株式会社は2019年9月11日、東京都品川区のラクスル株式会社でデジタルマーケティングセミナーを開催。ミッドファネル(潜在層)向けのマーケティングのプロフェッショナル、ラクスル株式会社取締役CMO・アドプラ事業本部長田部正樹さんと、ソウルドアウト株式会社取締役CMO美濃部哲也さんが経営者やマーケティング担当者に向け、成長の踊り場を乗り越えるための方法を伝えました。
今回は、美濃部さんよりお話頂いた「人の心を動かす共感型コミュニケーションの作り方」を実践事例を交えながら共感型ブランディングの重要性についてご紹介します。
 

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美濃部 哲也(みのべ てつや)
ソウルドアウト株式会社 取締役CMO
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美濃部 哲也(みのべ てつや)
1969年生まれ。1993年に株式会社電通に入社。その後、株式会社サイバーエージェント常務取締役、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ取締役営業統括本部長、タビオ株式会社執行役員マーケティング本部長、株式会社ベクトル執行役員などを経て、2017年3月に当社に執行役員として参画。2018年4月より当社取締役CMOに就任。マーケティング、ブランディング、サービス立ち上げなどを通じて、中小・ベンチャー企業の成長を支援。

翻訳して意味をつくり、価値を再定義するのがブランディング

下記の図は、縦軸を売上や規模、横軸を時間とおいた、企業の成長曲線です。デジタル広告という観点で見ると、多くの企業は、まずデジタル広告に取り組むことで一度伸びます。ノウハウが不足していると成長は止まりますが、我々のようなデジタル広告代理店が支援させていただくなどして適切な施策を打っていけば、さらに成長させることができます。しかしどうしても、成長が鈍化する時期がやってきます。特定のキーワードの検索数には限りがあり、抜本的なマーケティング戦略の見直しをしていかない限り、競合との差別化も難しくなるからです。

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成長が頭打ちになった時、限界を突破するために重要なのがブランディングです。ブランディングにはいろいろな解釈がありますが、私はブランディングとは、「翻訳して意味をつくり、価値を再定義すること」「それによって、お客様との運命の出会いを生み出すこと」だと考えています。

大事なのは、ブランドをどう作るかではなく、ブランドを活用してどう市場を作るか。「顧客を起点とした自社の再定義」と言い換えてもいいでしょう。今日は実際に私自身が事業主会社サイドと支援会社サイドのそれぞれの立場で実践をしてきたブランディングの事例を交えながら、説明させていただきます。

一番大切な「たったひとり」に向けた共感型コミュニケーションで人の気持ちを動かす

デジタル広告は、2018年時点でテレビ広告を超え、広告費全体の約3割を占めています。(※1)かつては、デジタル広告がニーズの明確な顕在層の刈り取りを行い、テレビや雑誌などのマス広告がニーズを掘り起こす潜在層を生み出していました。しかし若い人を中心にテレビ離れが進み、雑誌の売れ行きも厳しくなってきている今、ほとんどの人が使っているスマートフォンに最適化したデジタル広告やコンテンツで、顕在層の刈り取りだけではなく、潜在層を生み出すことを含めて全てのファネルのマーケティング(フルファネルマーケティング)を行う時代になっています。


例えば、少し古い話になりますが、マーケティングの最先端を行っている生活関連企業のP&G社の事例をご紹介します。ロンドン五輪に合わせP&G社が、インターネットで“ある動画”を配信し、世界中の人たち、特に女性に共感を呼び話題となりました。
その動画は、「お母さんという仕事、つまり、生まれた子供のお世話をして、育てていくという仕事は、世界で一番大変な仕事であり、素晴らしい仕事です。すべてのお母さんにありがとう。私たちはお母さんのサポーターであることを誇りに思います。」(The hardest job in the world, is the best job in the world. Thank you, Mom. Proud sponsor of Moms.)というメッセージを投げかけています。

動画のストーリーはこんな感じです。
↓                 

~CMストーリー~
子供が生まれ、その子供が習い事をするようになり、お母さんは子供を朝起こしたり、お弁当をつくったり、送り迎えをしたり、汚れた服を洗濯したりします。喜怒哀楽を共にしながら、子供はどんどん力をつけ、小学生の大会、中学生の大会で優勝し、ついにオリンピックに出場します。会場にいるお母さんは心から応援し、メダルを獲る瞬間に立ち会うのです。親子は競技終了後に抱き合ったり、またテレビカメラの向こう側でテレビをみながら泣いているお母さんに手を振ったりします。それぞれの親子の形を各国、各競技ごとに紹介していくのです。そして最後に、前述のメッセージで締めくくっています。

この動画のポイントは、「オリンピック選手のお母さんでなくても、全てのお母さんは同じような想いで我が子を育てていますよね。だからみんなが素晴らしいんです。」と暗示していることです。その共感性と大胆さを兼ね備えた動画と「世界で一番大変な仕事は、世界で一番素晴らしい仕事」というメッセージ。これによって世界中の母親の共感を呼び、全員を味方にできる。共感を引き起こすブランディングの好例だと思います。
この動画はまずインターネット上で流れ話題となりました。デジタルでのブランディングでここまでできるようになったということを証明した先行事例です。

これまでのデジタルマーケティングは、定量的なデータに基づき、運用で少しずつ成果を改善することが重要でした。一方で、顕在層にアプローチして刈り取りることに始終していると顧客創造に限界がやってきます。その限界を突破する場合は、人の心を動かす共感型の表現が重要です。運用部分は進化するテクノロジーに託し、人間は心を本当に動かすためのクリエイティブを考えていくべきなんです。ある業界誌の中で、2018年9月に惜しまれながら他界された女優の樹木希林さんが広告会社のクリエイターに対し、「あなた、自分の感性を信じなさいよ、データでは強い表現は作れないわよ!」と話したというエピソードが紹介されていました。繰り返しになりますが、顕在層の刈り取り型の広告展開で成果を上げていくのには限界があります。それに加えて、「実は私、これが必要なのかも!」「私、これ欲しいのかも、好きなのかも!」というように、心を動かされるようなクリエイティブを展開して、自社(商品・サービス)に対して共感度の高い潜在層を創造していくことをデジタルマーケティングで展開する時代がきているのです。

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※1日本の広告費電通調べ 

ブランディングのカギを握るのは「たったひとり」を決めること

圧倒的なクリエイティブを作る上で重要なのは、顧客視点に立ちブランディングの軸を創ることです。私はその軸を見つけるために、ある究極の問いを投げかけることにしています。それは「あなたの会社にとって、この先10年の未来を明るいものにするために、一番大切な『たったひとり』は誰ですか」というものです。
 

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一番大切な「たったひとり」とは、サービスや商品のヘビーかつフリークエントユーザーです。しかも、周囲に対しての良い影響力があり、商品やサービスとの相性が良く、シナリオ映えする人のことです。この「たったひとり」の人が「そうそうそう!」と共感するようなメッセージを創り、そのメッセージをある程度広い層にリーチさせていくことが重要です。
その際に重要なのは、ストーリーと世界観です。ただの数字の羅列である円周率はなかなか記憶に残りませんが、昔話の「桃太郎」はみんな、かなり具体的に覚えていますよね。それは、語り継がれる昔話にはストーリーがあるからです。「たったひとり」が自身の価値観として共感できるようなストーリーと世界観をもとにし、メッセージを創っていくべきなんです。

「たったひとり」を定めれば、見えていなかった市場が見える

いくつか、具体的な事例をご紹介します。私自身がその急拡大期に在籍したブライダル企業の株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの当時の事例です。当時のブライダル企業のコミュニケーションターゲットはご新郎ご新婦様で「その日、人生でもっとも素敵に輝きたいご新婦様」であることが普通でした。しかし、そのようなターゲティングでは、他の結婚式場と差別化できず、また当時全国展開を始めていたのですが、地方のお客様の心には今一つ響きにくい状況でした。

そこで、先ほどの顧客ピラミッドの頂点にいる「たったひとり」を「自分たちのためでなく、大切な人との絆のために結婚式をきちんとやりたいご新郎ご新婦様」に設定したんです。例えば、「長生きして良かったよ、冥途の土産ができたよ。」なんて冗談を言っているおじいちゃんおばあちゃんの姿をみたご新郎ご新婦様とご両親が涙するようなシーンをひとつの象徴的なゴールイメージとして設定していました。ハウスウエディング会場などのハードの側面以上に、ウエディングプランナーがプランニングする結婚式から生まれる価値を重視し、それを翻訳して意味や物語性を創っていったんです。その時生まれたのが「いいウエディングには、小さな奇跡があふれている。」というキーメッセージと物語性のある動画でした。そのキーメッセージを軸にして、顧客向けのブランディングと社内向けのインナーブランディングを展開していきました。

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このブランディングとともに約5年間で全国に60か所近くのハウスウエディング会場を展開し、日本の結婚式に対する概念を変えていったのです。余談ですが、つい最近、当時テレビCMを展開していた会場に見学に来た方から「来場のきっかけは小さい頃に見たあのCMです」とおっしゃって頂きました。人の心を動かし記憶に残せる、非常に良い成果を出せました。

次に、リブランディングによって成長を遂げた「靴下屋」を全国展開するタビオ株式会社の事例をご紹介します。私は自分の目で感じたことを材料に戦略を立案することを重視しています。実は、この会社に参画する前に2ヶ月かけて仙台から名古屋まで100店舗以上に足を運びました。自分の身は明かさずに、すべての店舗で3足程度の買い物をしながら、ショップスタッフの方々の話を聞き、単独いわゆるミステリーショッパーを100店舗以上に敢行しました。その中で、健康軸での展開が可能か、スポーツ軸での展開はどうか、レッグファッションというカテゴリー創造は可能か、ギフト需要は伸ばせそうだぞ!など、実感を得ていきました。その時に知ったこと感じたことをもとに計画を作ったのです。

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中でも大成功した事例に「父の日」の展開があります。それまでは「Thanks Dad」という、どこにでもあるようなポスターや店頭POPを作っていました。毎年デザインや文字のレイアウトが変わる程度です。そんなことでは人の心は動かないと考え、「一番大切なたったひとり」の設定から始めました。「地方出身で実家から遠く離れた都会で旦那さんと小さな子供と暮らす30歳前後のママ」という設定にしました。そんな女性が、お父さんに一番感謝を伝えたくなる場面で、走馬灯の一コマとしてお父さんと一緒にいるシーンは何だろう?そのシーンのなかでお父さんの靴下が出てくるシーンは何だろう?を突き詰めて考えました。その結果思いついたのが、仰向けに寝て足を上げたお父さんの足裏に乗せてもらった子供が両手を広げて「飛行機」をして遊ぶシーンだったんです。

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「空を飛ばせてくれた、お父さんの足へ。父の日に靴下を贈ろう」というキーメッセージを添えて、父の日のキャンペーンを展開しました。すると想定していたような女性から、「2年前に父を癌で亡くしました。この広告を見て、父がどれだけ私のことを愛してくれていたかということを思い出しました」とメッセージが届くなど、多くの方から反響がありました。そして、驚くほど多くのお客様に父の日のギフトとして靴下を購入していただけたのです。「父の日に靴下を買おう」と考えていた人にお客様になっていただくという発想ではなく、「今年は父の日に何か贈ろうかな」と漠然と考えていた人に「今年の父の日はタビオの靴下を買おう」と振り向いていただけました。「お父さんのことが好きな人、お父さんに感謝している人全員」に訴えかけるキャンペーンをしかけることになり、かつ、靴下を「履くもの」から「贈るもの」へという市場創造をすることができたのです。

明るい未来を描き切り、生きざまレベルの共感を

このように、「一番大切なたったひとり」を見つけ出し、その人の生きざまや価値観に共感し、「同じ方向を向いている」と思えるような立ち位置から生まれてくるストーリーや表現が、ブランディングには特に重要です。商品やサービスのより良い点の列挙や機能的ベネフィットも大切ですが、情緒的なベネフィットの先にある、生きざまとしての価値観に共感が生まれるようなメッセージ(←これを専門用語では、自己表現ベネフィットといいます)が心に響きます。

加えて、そのストーリーや表現の先に、明るい未来を描き切る意志が感じられることも重要だと考えています。有名な話ではありますが、スティーブジョブスがアップルに復帰した際には、「Think different」というメッセージで、「世界を変えてきた人」「自分らしく生きる人」の生きざまを讃えることによって、顧客を創造し、復活の狼煙をあげました。日本では、例えば資生堂さんは「一生も一瞬も美しく」というキーメッセージを掲げ、一貫して「美」を讃えるブランディングをしています。同社は、今から20年以上前の1997年ごろに「美しい50歳が増えると、日本は変わると思う」というメッセージを、とあるスキンケア商品の広告展開で発信しています。社会をどうしていきたいかがわかる、明確なメッセージですね。描き出された未来に賛同する人が多かったからこそ、今なお共感されるブランドであるのだと思います。

こんな風に、生きざまのレベルで共感できるコミュニケーションを目指していけば、より素敵なブランド、強いブランドが作れます。その中で自らの価値を再定義することで、これまで出会えなかったお客様との運命の出会いが生まれるのです。次のステージに進むためのブランディング。ブランディングの第一歩は「この先の10年が明るい未来になるために『一番大切にしたいたったひとり』は誰ですか?」という究極の質問に向き合うことです。みなさんにとっての「一番大切なたったひとり」をぜひ見直す機会にしていただければ幸いです。


推薦図書

山口 周「ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式」ダイヤモンド社
齋藤 嘉則「問題解決プロフェッショナル―思考と技術」ダイヤモンド社
片平 秀貴「パワー・ブランドの本質―企業とステークホルダーを結合させる「第五の経営資源」」ダイヤモンド社
梅田 悟司「「言葉にできる」は武器になる。」日本経済新聞出版社
西口 一希「たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング」翔泳社
 

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パンくず