ロールモデルは渋沢栄一。PR会社という概念を超え進化し続けるベクトルの経営戦略とは。

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2020.07.10
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社会全体が大きな変化を迎えている今、コミュニケーションにも大きな変化が生まれています。あらゆる情報のデジタル化が進み、新しいマーケティング・コミュニケーション手法が生まれる中、国内最大手のPR会社ベクトルでは、この数年間「PR会社からの脱却」という社内メッセージを掲げて大変革を行ったそうです。今やPR以外の事業で50%の売上を上げ、PR会社という枠組みを超えコミュニケーション領域のSPAカンパニーを目指すと標榜するベクトルはどのように変革を遂げ、どこに向かっていくのか。株式会社ベクトルの代表取締役社長を務める長谷川創氏に、ソウルドアウト株式会社 取締役CMO 美濃部哲也がお話を伺いました。

※このコンテンツは、2020年4月3日にオンラインで対談・インタビューしたものです。本文掲載中の写真は、一部実際の取材中の写真ではありません。

長谷川 創(はせがわ はじめ)
株式会社ベクトル 代表取締役社長
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長谷川 創(はせがわ はじめ)
1971年生まれ。1993年、関西学院大学在学中に創業メンバーとしてベクトルに参画。その後、2年間旧郵政省に入省するが、1997年に株式会社ベクトル入社。2001年より取締役、2004年に株式会社アンティルの代表取締役就任。2010年よりベクトル中国の董事長及び海外子会社統括役に。直近では、株式会社ベクトル取締役副社長兼グループCOOとしてベクトルグループ全体の業務遂行・管理を担当。また、複数の新規事業立ち上げを推進し、D2C事業を展開する株式会社Direct Techの代表取締役や、株式会社PR TIMES等の社外取締役も兼務し、グループ全体の成長を支える。2020年5月より、代表取締役社長に就任。
美濃部 哲也(みのべ てつや)
取締役CMO
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美濃部 哲也(みのべ てつや)
1969年生まれ。1993年に株式会社電通に入社。その後、株式会社サイバーエージェント常務取締役、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ取締役営業統括本部長、タビオ株式会社執行役員マーケティング本部長、株式会社ベクトル執行役員などを経て、2017年3月にソウルドアウト株式会社に執行役員として参画。2018年4月より取締役CMOに就任。マーケティング、ブランディング、サービス立ち上げなどを通じて、中小・ベンチャー企業の成長を支援。

PR会社からコミュニケーション領域のSPAカンパニー(※1)へ

美濃部:ベクトルグループは幅広い事業を手掛けられていて、PR会社という概念を超え、新しい分野への取り組みを積極的に推進している印象です。どのような構想で展開されているのでしょうか。

長谷川私たちが目指しているのは、コミュニケーション領域のSPAカンパニーです。ベクトルというとPR会社と認識いただくことが多いのですが、そもそもPR支援とはお客様の情報を広めるためのコンテンツやコンテクスト(文脈)を作り、それをどうメディアで流通させるかの一連の流れを考え、実行するまでをソリューション化したもの。それならば、流通する先のメディアも自社で持ってしまった方が期待に応えられるのではないかと考えています。

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美濃部:アパレル企業で例えるなら、工場から店舗まで自社で持つような話ですね。現在、PR事業とそれ以外の事業の売上比率はどのくらいなのでしょうか。

長谷川グループ全体の売上のうちPR事業の比率は47%のみ。残り半分の大まかな内訳は、ビタブリットジャパン社、Direct Tech社のD2C(Direct to Consumer)事業が20%、あしたのチーム社、ベクルーティング社のHR Tech事業が11%、ニューステクノロジー社のモビリティアドを中心としたサイネージ広告事業が5%、NewsTV社のビデオリリース配信事業が5%という配分です。

サイネージ広告事業では、大手タクシー会社の1万台以上にコンテンツを配信するモビリティメディア(※2)「GROWTH」を筆頭に、都内各所の屋外広告や、表参道・代官山・恵比寿・銀座を中心とした美容室サイネージ事業にも今年から参入しました。今後の展開として、店舗内サイネージなどのインストアメディアやゲーム領域・XR領域(※3)と、考えうるあらゆる面をメディア化していこうと考えています。そして、動画を主とした様々なコンテンツを管理・配信・分析まで可能にするような日本独自のプラットフォーマーになろうとしています。

D2C事業では、ビタブリットCというスキンケア・ヘアケア美容品や、エイジングケア化粧品、まつげ美容液など、美容分野を中心に様々な商品を扱っています。人気女性YouTuberと協働して開発販売したRICAFROSH(リカフロッシュ)というリップティントは、発売1日で1万個の売上を記録しました。設備投資も積極的に行っており、物流の倉庫を自社で保有し、物流システムも内製しようとしています。

その他にも、先日個人情報保護法の改正案が閣議決定されましたが、企業がWeb上でどのように個人情報を取り扱うべきかを支援する、プライバーシーテック領域でも新規事業を立ち上げました。

一方で、新しい領域への挑戦に注力できるのは、主力PR事業で優秀な若手がしっかりと育っているからという背景もあります。各組織がそれぞれに切磋琢磨し、自走する状態に移行していくことで、私自身はコミュニケーション領域のSPAカンパニーとしての陣頭指揮をさらに進めていきたいです。

※1 SPA:specialty store retailer of private label apparelの略で製造小売ともいう。企画から製造、小売までを一貫して行うアパレルのビジネスモデルを指す。ここでは、情報発信のコンテンツやコンテクスト(文脈づくり)から露出するメディア運営まで一気通貫で行う事業モデルのことを「コミュニケーション領域のSPAカンパニー」と呼んでいる。

※2モビリティメディア:タクシーの後部座席のデジタルサイネージなど、交通手段とされる乗り物の中に表示されるデジタルサイネージ。

※3 XR領域:VR=Virtual Reality、AR=Augmented Reality、MR=Mixed Realityの総称。
 

学生起業から東証一部上場へ。大切なのは相手目線

美濃部:改めて長谷川さんご自身の経歴についても伺わせてください。学生で、現会長の西江さんと共に起業してからこれまで、どんな想いで事業を拡大されてきたのでしょうか。

長谷川:大学時代に創業者でグループ会長の西江と出会ったのがこのビジネスに足を踏み入れたきっかけです。大学生で起業し、学生向けのイベント企画の事業をしていた西江を手伝うことになり、毎日スーツで大学に通っていましたね。
大学卒業後は、郵便局の局長をしていた父の強い勧めもあって当時の郵政省に就職したんですが、2年働いた後にベクトルに戻りました。当時はまだPR事業を始めておらず、セールスプロモーションがメイン事業で、イベントやサンプリングなどの仕事が多かったです。私の最初の仕事は渋谷のイベント会場に弁当を運ぶこと。そんな下積み時代でした。
見様見真似でPR事業を始めたのが1998年頃です。今のように、PRについて書かれた書籍も、PR TIMESのような便利なプレスリリース配信プラットフォームもない時代です。日本のメディア環境に合ったPR戦術を自分たちで模索しながら泥臭く働いていましたね。それから様々な苦労を乗り越え、順調にPR事業を拡大することができ、2012年に東証マザーズ上場、2014年に東証一部に上場することができました。

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美濃部:この度、代表取締役社長に就任されました。ここまで突き進んできた長谷川さんの中に信念のようなものがあれば教えてください。

長谷川:個人的に、これまで社長になりたいとか、グループを大きくしたいというよりも、クライアント様の求める以上の結果を出すこと、プロジェクトが終わった時に「ありがとう、ベクトルにしてよかった」という言葉をもらえるかどうかにこだわっていた気がします。その視点をずっと大切にし続けた結果、ここまでグループが大きくなった。クライアント様に育てていただいたような感覚があります。
社内で良く言うことなのですが、個人の信条として、「相手が怒っていたら、自分が間違っていなくてもまず謝る」ということを意識しています。親の教育の影響で、自分に言い分があったとしても相手に不愉快な思いをさせてしまったならまず謝ることが重要、謝った上で自分の主張をするべきだと考えています。どんなシーンでも、相手目線で仕事、経営を進めていくことを意識していますね。

「PR会社からの脱却」中国駐在を機に考えた変革の必要性

美濃部:PR事業が順調に成長し、国内でNo.1の規模になる中で、今のような事業構想を考えられたのはいつ頃からでしょうか。

長谷川:2014年頃です。2010年から2014年まで海外展開のために中国に駐在し、中国のテクノロジーの進化とスピード感の違いを目の当たりにしました。その後、日本に戻ってきて、このままではまずいなと思ったんですよね。PRに関しても、中国ではスマホを中心に、生活者へダイレクトに情報を届けていました。当時では新しい形のtoC型デジタルコミュニケーションへの移行です。対して日本ではまだメディアを通して情報を届けるというtoB型のコミュニケーションから進化していなかった。このtoCとtoBを両方兼ね備えられるような新しいPRの形に軸を移していかなければいけないと感じました。

美濃部:その直感が先の大きな事業改革につながったのですね。

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長谷川:はい。とはいえ、社内でも最初から理解を得られたわけではありませんでした。そこで、2016年頃から、社内の幹部会議で「旧来のPR会社のスタイルから脱却しなければ、先はない」というメッセージを発信し始めたんです。劇的なメッセージを発信しないと、社内が変わらないと思ったんですよね。

ただ、誤解して欲しくないのは、PRという戦略はこれまで通り重要だし残るということです。その上で、戦術としてのPRは、当時の手法のままではお客様の満足が得られなくなり、新しい戦術が必要になると伝えたかった。実際に、グループの新規事業の考え方は、PRの観点や考え方を非常に重要視しています。

1日1個進化する人が集まるチームに

美濃部:新しい目標に対して変革を行う中で、組織マネジメントはどんなことを意識されていますか。

長谷川:起業家・経営者視点を持つ人間を育てること、そういうマインドを持った人材に外部から参画してもらうことを意識しています。例えばグループ営業利益250億円を目指す際に、営業利益5億円の会社を経営できるような人材を50人輩出し、それぞれに経営を任せていくというような戦略を取っています。そのためにも、イノベーティブな視点を持った若手経営者を育てていくことが重要だと考えています。
そういう意味でいうと、D2C事業はグループ全体の経営者育成環境構築のためという意味合いもあります。D2Cのビジネスモデルの特性上、商品設計の際にいかに原価率を下げるか、工場とどう折衝するか、いかに在庫を少なくするかなど、PL・BSの視点を養うには最適な事業環境だと思っています。多方面の方々との折衝や調整をして頭を下げ、ひとりではビジネスが成立しないということに気づきます。その気づきが重要だと思っています。

美濃部:人を育てていく上で大切にされていることはありますか。

長谷川:若手に一番伝えているのは、「1日1個でいいから昨日の自分よりも進化したことを見つけなさい」ということです。昨日知らなかったことを今日知ったなど、何でもよいのです。ひとりの進化が10人のチームでは10個の進化になり、100人の会社なら100個の進化になる。それがグループ全体だと1,200人で1,200個の進化につながっていきます。常に進化する視点を持ちなさいと伝えていますね。

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美濃部:長谷川さんが抜擢する人たちは、すごい成長を遂げていますよね。どんな視点で人を見ていらっしゃるのですか?

長谷川努力している、全てを自分ごとに考えて行動することができている、野心があるなどはもちろんのこと、仲間やチームのことをすごく考えて動いている人ですね。うちの子会社社長は、みんなプレイングマネージャー的なんですよ。自分も動くのでみんなも動いて、全員でハッピーにやろうと。そういう人が多いですね。外部から招聘する場合は、知見と経験を持ち合わせつつも、きちんと手も動かし、チームも動かせるというバランスを持っている方という視点を大切にしています。

運命の出会いを、ヒトとモノとコトの間に

美濃部:長谷川さんは経営者として渋沢栄一さんをロールモデルにされていると伺いました。

長谷川:はい、私自身が経営の参考にしている方です。彼は国益のために日本のインフラを作ると決め、多岐に渡る事業を起こし、アライアンスを推進する進め方をしていました。まさにベクトルグループも同じで、日本の企業様がコミュニケーション領域で使いたいと思っていただけるインフラを作っていこうとしています。グループとして足りないものは、いろんな企業様とアライアンスを組み、実行するためのスピード感を大切にしています。それがこれからの日本にとって、とても重要なのではないかという考えがベースにあります。

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美濃部:最後に、今後のビジョンについて教えてください。

長谷川日本企業がモノを広めたい時に、最適な手法と適切なプライスで簡単に使えるコミュニケーションを、テクノロジーで支えるインフラを通じて提供していきたいです。
新規事業が多岐に渡っているため、それぞれの事業は一見するとバラバラに見えますが、目指しているのは様々な事業の入り口からお客様のサービスを最大化していくことです。その上で、集まったデータをさらにお客様のサービスに昇華させ、クライアント企業様の成長のインフラとなりたいと思っています。
私たちがグループとして目指すのは、「運命の出会いを、ヒトとモノとコトの間に」という世界観です。生活者が、ターゲティングで精査された情報だけに取り囲まれるのではなく、その人にとって人生を変えたり、新しい楽しさや喜びが生まれる、新しいヒトやモノ、コトとの出会いを生み出すコミュニケーションを提供していきたいと考えています。

美濃部:急速に進化を遂げる、長谷川さんをはじめとするベクトルグループの想いをお伺いでき、今後の展開がより一層楽しみになりました。本日はありがとうございました。

パンくず