日本中小製造業の活性化のために町工場の2代目社長の挑戦。

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2020.05.27
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東京都太田区に拠点を構えるダイヤ精機株式会社。主にゲージと呼ばれる測定具を作るメーカーとして、1969年の創業以来事業を拡大しています。そんな中、2004年に創業社長の急逝により事業を承継したのは、実の娘である諏訪貴子氏。2代目経営者として町工場の経営を立て直し、自身の経験が「マチ工場のオンナ」としてドラマ化もされています。そんな諏訪さんが就任当初から力を入れているのがIT化とデジタルシフト。最近では、本業と並行して中小製造業向けのクラウドツールを共同開発し、全国中小企業クラウド実践大賞で「日本商工会議所会頭賞」を受賞するなどの評価もされています。
 
40年以上前に誕生した正社員数20数名の町工場がITを活用してどのように生まれ変わったのか。ダイヤ精機株式会社 代表取締役 諏訪貴子氏にお話を伺いました。

※このコンテンツは、2020年3月11日に対談・インタビューしたものです。

諏訪 貴子(すわ たかこ)
ダイヤ精機株式会社 代表取締役
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諏訪 貴子(すわ たかこ)
大学卒業後、自動車部品メーカー 株式会社ユニシアジェニックス(現:日立オートモティブシステムズ株式会社)に入社。父親が経営するダイヤ精機株式会社に2度入社するが、経営方針の違いから2度ともリストラされる。2004年、父親の急逝に伴い、ダイヤ精機株式会社の代表取締役に就任。著書に『町工場の娘』『ザ・町工場』がある。

生産性向上のため業務効率化ツールを共同開発

ーまず改めて、ダイヤ精機さんの事業内容を教えてください。

主に自動車の部品を測定する、ゲージと呼ばれる測定具を作っています。設計、材料調達、切削加工、研削加工、検査、出荷と一貫して行うことで、高い品質の確保とスピーディーな納品を実現しています。また、本業と並行して、中小製造業向けのクラウド型コミュニケーションツール「Lista(リスタ)」を、パートナーであるシステム開発会社と共同開発しました。

正社員の総数は24名。うち5名が営業で、設計2名、事務1名、経理1名で、残りはみんな工場で働く工場員です。
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ー町工場でありながら、コミュニケーションツールListaの提供をしているのは珍しいですよね。どんなツールなのか教えてください。

Listaは中小製造業で働く従業員が、自分たちが持っている情報を共有し、生産性を上げるためのツールです。お客様への納品スケジュールや受注見込み、企業目標や売上目標などの共有、進捗管理、日報、総務からの情報発信など、社内で持っている情報管理を一括で行えるのが特徴です。

さらに、名刺取り込みによる顧客管理、各種申請・稟議書のやりとり、情報発信のための掲示板機能など、我々くらいの規模の中小企業に必要なあらゆる機能を搭載しています。誰がいつ利用したか確認できるようにもなっているので、ちゃんと社員が使えているのかの把握も可能です。

特にこだわっているのは、製造業の現場の人たちが使いやすいツールにすること。また、製造現場の人たちはITがあまり得意ではないので、「シンプル、簡単、感覚的に使える」ことを大切にしました。

社長就任後、最初に取り組んだIT化

ー諏訪さんは2代目社長と伺っています。どのような経緯で会社を引き継ぐことになったのでしょうか?

大学卒業後、大手自動車メーカーの子会社にエンジニアとして入社しました。その後、結婚・出産を機に退職し、子育てがひと段落した段階で父からの誘いもあって何度かダイヤ精機で働きましたが、経営方針が合わず長くは続きませんでした。

会社の状況は決してよくなく、事業は低迷していました。そんな中、父が肺がんであることが発覚し「もう1回会社に入ってくれ」とお願いされました。いつか父親の後を継いで社長にならなければ、という感覚があったこともあり、社長になる決心をしました。そのすぐ後に父は他界。32歳で会社を継ぐことになりました。

社長就任後に最初に着手したのがIT化、生産管理システムの全面変更でした。前職で生産管理に取り組んでいた経験から、製造業でもIT化は必須だと思ったんです。ここは曲げませんでした。まずは前職の大手メーカーと同じ手法を取り入れてみました。作業工数など共有したい情報を載せた紙をホッチキスで図面に留め、その図面を介して社員間で必要な情報を共有するやり方です。
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しかし「めくるのが面倒くさい」「紛失した」「汚れた」と現場からフィードバックがあり、この方法を導入するのは難しいと判断しました。そこで、次に図面にバーコードを貼付してそれを読み取る形にしてはどうかと思いつきました。それならめくる手間もかからないし、紛失したり汚れたりすることもないと思ったんです。

バーコードを使った製造業向けの管理システムはまだなかったので、作るしかありませんでした。そこでパートナーとなるシステム会社を探し、システム会社さんのパッケージソフトをカスタマイズしながら一緒に開発を始めました。

導入直後は反発もありました。当時は50〜60代の従業員が多く、新しいシステム、かつITを駆使したものはすぐには使いこなせなかったんです。そこで、全社員に対して私自身が新しいシステムの使い方をプレゼンし、質問をアンケート形式で回収しました。何回もアンケートをとると質問がなくなり、今度はもっとこうしたらいいという提案が出てくるようになりました。

出てきた提案は全部システムに反映させていきました。すると提案をした社員たちもシステム開発に加わった当事者になり、関わったからには成功させなくては、という雰囲気が生まれました。その結果、当初は半年から1年はかかると思っていたシステムが3ヶ月でリリースできました。


ー社長就任直後から業務効率化に取り組まれていたんですね。Listaもその一環として開発されたのでしょうか? 

そうですね。就任から15年経ち、2007年より人材確保と育成を始めたのです。2004年当時は、50代・60代の社員が1番多かったのですが、現在は20代・30代が多くなっています。技術を保持したまま、組織構造の変化に成功したのですが、一方で生産性は落ちてしまっていました。それはなぜかと思い、若手と熟練の職人の総稼働時間の違いを調べてみたんです。そこでわかったのは、若手は図面を手にしてから、機械を動かすまでにすごく時間がかかっていたこと。熟練の職人さんはいろんな経験を積んでいるので、図面を見た瞬間動けるのですが、若手ってそれがなかなか難しいんですよね。なので、経験値とは関係なく、他に時間がかかっているところは何かと調べた時に、会議や電話対応、営業との確認や打ち合わせだったんです。だからこそ、生産性を上げるためには企業の情報管理の徹底が必要だと考えました。社長就任当初に導入した生産管理システムは、一方通行のコミュニケーションでした。そうではなく、双方向のコミュニケーションを進めたいと思ったんです。各社員が持っている情報を一元管理できれば生産性が上がるのではと思ったことがLista開発のきっかけです。

最初は既存のグループウェア※導入を検討しました。ただ、設定が大変だったり、使いこなせなかったりで、社内に浸透させるのは難しかったです。そもそも、カタカナ用語がわからない人にとっては使いづらいなと思いましたね。

コレといったツールが見つからなかったので、それならばと、シンプルで誰でも感覚的に使えるものを自社で作ることにしました。開発を進めたListaでは、欲しかった機能の実装に加え、トップページで全ての情報を閲覧できるようにしたり、チャットではなく「掲示板」などツールを使う人にとってわかりやすい日本語表記をしています。

※グループウェア:ネットワークを使用し、情報共有やコミュニケーションを行い業務効率を上げるツールの総称。スケジュール管理などの機能が1つのシステムに統合されている。

経常利益8倍、営業と現場の対立解消など、すぐに成果が表れた

ー実際にListaの開発・導入で成果は上がったのでしょうか? 

自分でも驚きましたが、経常利益は前年の8倍になりました。プロジェクト化して全社で一気に動いたので、効果が出るのも早かったですね。

他にも変化はありました。まず、今会社で抱えている業務の全体量を社員の誰もが把握できるようになり、お客様からの難しい要望にも「今ウチはコレだけ抱えていて、納期はコレだけかかります」と冷静に回答できるようになりました。それによってお客様からの信頼を落とすことなくコミュニケーションを取れるようになりましたね。

また、各部署の情報がオープンになったことと、会社の目標にアクセスしやすくなったことで、これまでリーダー陣でしか共有できていなかった目標を全社員が意識して動けるようになりました。おかげで、社員のモチベーションが上がり「これやりましょうか?」と目標に対して自発的に動けるようになりました。

目標は目指すもので、ノルマは課せられるものだと思っていて、Listaを導入することで自発的に頑張ろうと思える社員が増えましたね。その結果、仕事をとってくる営業と納期に間に合わせなければならない現場との対立がなくなり、目標に向かって協力し、一体感を持って仕事ができるようになりました。

不良品も、見える化したことで激減したので、改めて意識することはすごく大事だなと思いましたね。

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日本の中小製造業の活性化のために

ーListaは開発コストに比べて利用料が非常に低く設定されています。その背景にはどんな想いがあるのでしょう?

中小製造業のIT化のための第一歩として導入してもらいたいと思ってこの料金にしました。

開発費用を早く回収しようと思えば利用料を高く設定することもできましたが、我々20名ほどの社員規模の中小企業が情報管理に使えるお金はせいぜい10,000円程で、それ以上は厳しいと思っています。

実は構想中に、司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』を読んで感化されちゃったんですよね。この国を変えるじゃないですけど、日本の中小製造業に改革を起こすには私利私欲よりも大義が必要だと。だからこそ、仮に投資分回収できるのが遅くなったとしても、このツールを使って1社でも多く攻めの経営ができるようになればいいなと考えたんです。

現在、海外のIoTやロボット、AI技術が注目を集めていますが、それだけでは補いきれないものが日本の製造業にはたくさんあると思っています。ものづくりの日本を取り戻すためには、1社だけ頑張ってもダメです。だからこそ、日本の製造業全体が活性化させるためのツールの提供が必要だと思っています。

今後も、自社の事業を推進することはもちろん、日本の製造業全体の活性化に向けた挑戦を続けていきたいです。

■サービス紹介
生産性を向上する中小製造業に特化したクラウド型コミュニケーションツール「Lista(リスタ)」

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パンくず

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